芋蔓読書

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 アメン父


〜芋蔓〜「神の微笑」から〜


田中 小実昌 / 講談社 (2001/01)


ずっと以前に田中小実昌の「ポロポロ」を読んだ。
ポロポロ (河出文庫)

短編集で、表題作の「ポロポロ」は、キリスト教の牧師さんであったお父さんとその周辺のお話だったと思う。忘れた。
その時はこれ以外の短編(戦争モノ)に興味があったのだが、ふと今思い返してみると、このお父さんはもともといた宗派?(バプテスト教会?)から独立して、かなり独特の教会をたてておられた。十字架すらなく、しずかで敬虔な信者だった人たちが「ギャアとかポロポロとか、わめいたり、わらったり」するような・・・。


独立??


宗派ということについてはよく分からぬが、まあだいたい「開祖」「教祖」といってもいいのでは?!
と、急に興味がわき、このお父さんについて書いた長編(中編?)を読みたくなったのです。


前置きが長くなったが・・・。難しい!もうほんとうに「宗教って何?!」という思いを深くしたのでした。
自分の言葉では説明できない上に、引用が難しい。長文を引用させていただきたい。

だれでも、宗教はココロの問題だとおもってる。ところが、宗教はココロの問題などとおもったら大まちがい、と父は言う。これは、ふつうの考えとはうんとちがう。ちがってもしようがないが、泣きごとめいたくりかえしになるけど、こんなことも、なかなかわかってもらえない。
  なにごとのおわしますかはしらねども
  かたじけなさに涙ながるる
これは西行法師が伊勢神宮にまいったときの歌だときいてるが、こういう心境が宗教心の原点みたいに世間ではおもわれている。この歌は素朴で、かざりけのない、それこそ宗教の原点として評判がいい。すくなくとも、この歌のわる口などきいたことはない。
しかし、お宮の前にたって、たしかにかたじけなく、もったいなさを感じ、涙がながれたとしても、それは宗教心みたいなものであって、宗教とは関係ないのではないか。それこそなにがなんだかわからないが、もったいなく、涙がながれたりするのは、修行や、自分の信心ぶりを誇るような信仰よりも、もっとすなおで、へりくだって、純粋な信仰心ではないかと言われるだろうが、やはり、それは心境や信仰心の問題で、実は宗教とは関係がないのではないか。
(中略)そのうたいぶりが、素朴でかざりがなく、ありのままの心境をうたったにしても、だれかの心境と神とを混同してもらってはこまる。


・・・。えー・・・っと。ちょっとは分かるかな?なんとなく。
しかし、信仰心と宗教とは関係がないというのがよくわからんのだが・・・。


神秘主義はよく宗教と混同され、ないしは宗教的だとおもわれてるが、神秘主義神秘主義であって、宗教ではない。宗教は主義なんてものとも無縁だ。また、宗教的などというのは、まったく宗教とは関係あるまい。ところが、たいていの人が宗教的なものにあこがれ、あるいは毛ぎらいして、それを宗教だとおもっている。


・・・。
いや、神秘主義=宗教ではない、というのはまあそうかもしれないが・・・。


では、宗教とは何か?
これは「原始仏典を読む」を読んでも分からなかったように、読んでも分からぬのです。
関係ありそうなのは、お父さんの改名願いの理由書。

幸にこの大正14年5月下旬はじめて天来の霊感に触れ信仰の如何なるものかいささか悟ることを許され、歓喜のうちに日を送り申し候。しかしそれも暫くにして時と共に去りて再びこれを得ることあたわず、ここに第二段の苦悩時代を現出せられ、しかもこの探求は年数こそ短かかれ実質的には激烈なものにして在来の比にあらず、ついに絶望して自らその志望を放棄せざるを得ざるまでに至る。この極地において自己本性の如何なるものなるかを深くその内省の機において触れしものに候。
されど天において如何なる経りんあるや知らざれどこの機に追いつめられるや、忽然として観照の光明に接し、いけるキリストの十字架解明の一大発見を与えられ候。


これは神秘主義とは違うのか・・・。
主義といってはアレかもしれないが、神秘的な出来事。


日記のなかでも、神秘的観念はけっして宗教ではない、正明覚中の意識ということを言っている。神がかりは、父はきらいだった。あとで、アーメン、アーメンとさけんでるころでも、あれは神がかりではなく、神がかりをアーメンではねつけるものだったのだろう。


難しい!しかしおもしろい。
「ポロポロ」「アーメン、アーメン」は神がかりみたいな、神秘的な出来事だったのではないかと思って読んだのだが・・・。手がかりがまたなくなった感じである。
(↑の「ポロポロ」は書名でなく、信者のお祈りのことです)


☆どうでもいいことですが・・・
知りたいことがあって、「アメン父」でググったら、こんなページが!
シュールすぎる。

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